オリトさんのこと - dedicated to Orito -


一 電話口から聴こえてくる声。
「はいナカジマ君。お、り、と、です」
あいかわらずの真っすぐな声だなア。携帯を片手に、僕は思わず向き直った。

山あり谷あり、生きていくってのは、オモシロい。 変わることなく沈まない眼差しが、言葉の向こう側を語っている。 礼節を尽くし、柔かな立ち振舞いを崩すことなく、歩む足も意気昂る。いにしえに居た、真の大和の男衆とはこのような人であったろうかと思わせる、 懐深く、自然の中のいきものとしての人。
オリトさんとは、そういうひとです。

武蔵野の森の面影がいまだ残る、東京のはずれ、 そこにいつからか居を構えたオリトさんから、 「遊びに来ないか」と声を掛けられ、僕はフラリと遊びに行ったことがある。 秋深まる、燃えるような紅葉の時節、目に飛び込んでくる黄金色の銀杏並木。駅前を抜けて玉川上水に沿う、広葉樹の落葉に彩られた散歩道を歩きながら、 僕らはとりとめもなくいろいろな話をした。

彼の音楽への情熱は、常に溢れかえるような熱を内に秘めていて、だからこそショウビジネスとして続けていくことで、 関わる人それぞれの思いがズレていってしまうジレンマに、その当時深く悩み、僕はそれを 「ハラの底からハナシをしようとする人だから、 避けがたいことなのかもしれないな」と思った。
彼はとことんダブルスタンダードを嫌う、 というか、そんなこと考えもしないって位、 どんな人にも、どんな事柄にも、 いつだって同じように真っすぐ見据えていこうとする。ウソもハッタリも吹っ飛んでしまうような力強さでもって、 強大なものから、儚く小さなものまで、 誰にでも手を差し伸べようとする。こっちがカッコつけてると逆に恥ずかしくなるような、 そんな、真っすぐな魂の人なのである。

互いの話に耳を傾け合いながら、 ものをつくるってなんなのか、作り手っていうのはどうあるべきなのか、美しいっていうのはどういうことなのか、音楽の話、映画の話、頭上でさえずる鳥達の 話、この土地の話、あの木々の話、その路地の話、 とりとめもなく話しては歩いた。
「オレたちは、一筋縄ではいかないんだな、やっぱりな」
おもしろそうな顔して、彼が呟く。
「扱いづらいと思うぜ、こんなオレたち」
僕もつられて、「確かに周りの人間には、めんどくさくてしょうがないスねえ」
ワハハハと二人で秋晴れの空を見上げて笑った。
1 2 3 next
text by Daisuke Nakajima /  Copyright (C) 2008 Daisuke Nakajima - tsubakuro. All Rights Reserved.